犬の膝の手術

膝蓋骨は大腿骨四頭筋と膝蓋靭帯の間にあり、膝が屈曲、伸展した時に、大腿骨の遠位に存在する滑車溝を滑らかに移動し、筋肉、靭帯、大腿骨、脛骨が正しい位置で動くように働いています。

小型犬で多い膝蓋骨脱臼は膝の内側へ脱臼することが多く、持続的な脱臼が続くと、大腿骨の滑車の内側の骨と、膝蓋骨が擦れることで、関節炎を発症します。

さらに経過が長くなると、膝蓋骨をつなげる筋肉や腱の付着部に強いテンションがかかり、骨の変形や、膝の内部の構造物の変性や断裂を引き起こします。

特に、膝の内部に存在する半月板(大腿骨と脛骨が擦れるのを防ぐクッション)や前十字靭帯(大腿骨と脛骨をつなぐ靭帯)が損傷してしまうと、症状はより重度に進行します。

膝蓋骨のグレード分類

膝蓋骨脱臼のグレード
Grade1押すと簡単に脱臼手を話すと戻る
Grade2膝の屈曲or押すと脱臼膝の伸展or押すと戻る
Grade3膝蓋骨は常に脱臼押すと戻るが、話すと再脱臼
Grade4膝蓋骨は常に脱臼徒手による整復は不可能

グレード3からは外科が適応されますが、当院では、若い場合や進行する可能性がある症例では、グレード2でも外科療法をお勧めしています。

膝蓋骨脱臼の診断には身体検査で、前十字靭帯の断裂などの続発疾患や関節炎の診断には、レントゲンや炎症マーカーなどを組み合わせて病態を評価しています。

手術

大腿骨滑車溝形成術

大腿骨の滑車溝と脛骨粗面を中心に膝の外側に皮膚の切開を行います。
出血や、組織の損傷を最小限にしながら、大腿骨滑車までアプローチします。
大腿骨の滑車の溝を確認し、膝蓋骨がきちんとはまるように、バーで骨を削ります。

脛骨粗面転移術

膝蓋骨をはめてみて、膝の伸展や屈曲がない事を確認し、脛骨粗面(膝の下の骨の靭帯の付着部)が内側に向いている時は一部脛骨粗面に骨切りを行い、外方へずらして、ピンで固定します。

関節外制動術 lateral suture

術中に前十字靭帯断裂がないか、大腿骨と脛骨をずらすドロワー試験を行い、不安定性が確認されたら、関節外から人工靭帯をかけます。 大腿骨の後方に付着する外側種子骨に糸をかけ、脛骨粗面にドリルで穴を開けて、両者を人工靭帯でつなぎ不安定性を解消します。人工靭帯は自己の組織で線維化されるので、そのまま入れておきます。

筋肉縫縮術

長期間の膝の変形が続いていると、膝の両側の筋肉のテンションに差が出るため、外側の筋肉がのび、内側の筋肉が縮んでしまいます。
内側の筋肉と靭帯の間を切り、優しく縫合し、外側の筋肉を縮めるように縫合します。(縫縮術)

術後管理

術後は経過が良好なら、3日〜5日程度の入院で抗生物質と必要に応じて消炎剤を処方して、ご自宅にお返ししています。
骨切りに挿入したピンは1ヶ月から1ヶ月半で抜去しています。大人しく協力的な子なら、局所麻酔で小さな切開を行い、ピンを抜いています。