小型犬が前足を骨折したら手術するしかないのでしょうか?
小型犬の前足骨折の手術後に金属の破折や感染や骨吸収などのトラブルが起こることがあります。また、手術から数ヶ月間にわたり治療しているのに治らなかったり、治療の終了後すぐに同じ場所で再骨折することもあります。そこで、手術以外の治療法として3Dギプスを開発しました。*犬の前足骨折の3Dギプス治療は当院で特許出願しています。
- 1、従来のギプスと3Dギプスの違い
- 2、3Dギプスの利点と欠点
- 3、3Dギプスの治療手順と料金
- 4、3Dギプスによる治療例
- 5、当院で行った学会発表
- 6、手術後の癒合不全の治療
1、従来のギプスと3Dギプスの違い
従来のギプス治療は亀裂骨折のみで限定的に行われています。しかし、3Dギプスによる治療は斜骨折や骨折面がずれた骨折でも治療可能になりました。
従来のギプスの問題点
添え木のように足に装着して骨折部位が動かないようにします。骨にヒビが入る亀裂骨折でギプス治療は行われていますが、骨折端がズレた骨折を治癒させることは困難とされています。また、数ヶ月間にわたってギプスをつけていると、骨は湾曲して骨密度が低下していきます。細く脆くなった骨は、再骨折のリスクが高くなります。骨折部分に刺激が伝わらないのが原因と考えられます。
従来のギプスの欠点を克服する必要があります。そこで、骨折周囲を安定的に固定しながら骨折部分に適切な刺激が加わるようなギプスを開発しました。
3Dギプス
従来のギプスの欠点を改良して、骨折周囲を安定的に固定しながら着地による刺激が加わる3Dギプスを作成しました。3Dギプスは立体的に完全にフィットして骨折の全周囲の固定ができます。従来のギプス と異なり着地して歩くことが可能です。3Dギプスの装着によって、横とひねり方向に安定性を持たせながら、骨折部位に垂直の刺激が加わります。骨折部位に適度な刺激が伝わることで骨折が修復されます。小型犬の細い足ほど安定的な固定ができて、亀裂骨折のみでなく骨折端のズレたタイプの骨折でも治療が可能になりました。
2、3Dギプスの利点と欠点
利点
- 無麻酔で治療ができます。
- 入院が不要です。
- 手術に比べて低コストです。
- 1ヶ月半〜2ヶ月で治癒します。
- 小型犬の細い前足でも治療できます。
- 斜めに折れた骨折でも治療できます。
- 運動制限がありません。
- 再骨折のリスクが低いです。
欠点
- ギプスの下の皮膚に湿疹が起きるので、1〜2週間ごとの通院が必要です。
- 3Dギプスを装着した当初は足先が浮腫むことがあります。
- 橈尺骨骨折以外は適応外です。
- 骨折してから長期間経過して、偽関節になっている場合は適応できません。
4、3Dギプスの治療手順と料金
骨折した直後
できるだけ早く来院してください。レントゲン撮影をしたのち、ズレた骨は徒手整復で矯正して完全固定します。
骨折から7〜10日後
午前中に来院していただき、午後までお預かりして3Dギプスを作成します。
3Dギプスの装着後
1〜2週間ごとの定期的な通院で消毒とレントゲン撮影が必要です。3Dギプスの装着後、約1ヶ月半から2ヶ月くらいで癒合します。ただし、炎症期に炎症止めを使用していたり骨折端が大きくズレている場合は、骨折の治癒まで3ヶ月以上かかることがあります。
3Dギプスの装着後は積極的に歩かせて、足裏から骨折部位に着地の刺激が伝わるようにします。折れた骨は刺激と休憩を繰り返すことで修復されていきます。自己の修復力を利用して骨折が治ると骨は太く強く再生します。
3Dギプスの作成料金
- 前足1本骨折:8万円
- 前足2本骨折:13万円
- 追加のギプス作成:2万2000円
その他にかかる費用は、レントゲン撮影、再診代、皮膚の消毒とギプス調整費などです。
4、3Dギプスによる治療例
足の骨が細くても運動制限ができなくても3Dギプスなら治療できます。前足が細い犬ほど3Dギプスは効果的です。100頭以上の犬の前足骨折を治療しました。
生後7ヶ月、体重1,5kgのポメラニアンの前足骨折

生後4ヶ月のトイプードルの前足骨折

約1ヶ月で骨折が治りました。
生後7ヶ月、体重1,3kgのトイプードルの前足骨折

従来のギプス固定では治らないとされていた骨折端のずれた骨でも、3Dギプスの治療で骨癒合しました。修復期には骨が太くなり、リモデリング期には自己矯正で骨がまっすぐになります。
大型犬のボルゾイの前足骨折

5、当院で行った学会発表
- 「3Dギプスによる犬の橈尺骨骨折の治療」
- 「犬の橈尺骨骨折のピンニング手術後の骨吸収が3DギプスとPRP療法で回復した症例」
- 「3Dギプスを用いた橈骨尺骨骨折の非観血的治療」
現在、犬の橈尺骨骨折の3Dギプスによる治療は当院で特許出願中です。
6、手術後の癒合不全の治療
人工骨、骨髄移植、PRP療法と3Dギプスの併用で治療が可能です。現在、Twitterで多数の症例を報告しています。プレートの破折や骨吸収やプレート除去後の再骨折などでお困りの場合は当院に相談してください。