会陰ヘルニア

未去勢の中齢以降の雄犬に好発します。男性ホルモンにより、肛門周囲(会陰部)の筋肉が萎縮することで、筋肉間に隙間が生まれ、直腸や前立腺、膀胱が脱出する病気です。

臓器が本来ある位置からずれてしまい、正常に排便行為や排尿ができなくなります。膀胱が脱出した場合には腎不全が続くこともあり、緊急的な整復が必要になることがあります。直腸が脱出した場合には、突出した直腸に便が貯留し、便秘の症状や、不快感からなんども力む姿勢(しぶり)の症状が出ます。宿便が続く事で、直腸の一部が膨らみ、直腸憩室になり、さらに病態は進行します。その部位で炎症が起こると、二次的な腸炎で下痢を起こしたり、前立腺へ炎症が及ぶと全身の発熱などにもつながります。

直腸の場合には、直腸診で、直腸憩室やその方向、大きさを評価します。会陰ヘルニアでは表面の皮膚はかゆみや軽度な痛みを伴うことが多く、触診では犬が嫌がることは多いです。

ヘルニアの位置により、手術難易度は大きく異なります。肛門のサイドの6時方向の会陰ヘルニアでは手術後の再発率が高くなります。

手術法

ポリプロピレンメッシュによる整復手術

当院では医療で使用される人工のメッシュをヘルニア部にいれ、会陰部でも強い支持組織(坐骨の骨膜や、浅結節靭帯と外肛門括約筋)と細かく縫合、固定することで整復を行なっています。 周辺に坐骨神経や動脈もあるので、慎重に縫合固定を行なっています。

当院はこの手術法でグレード4の会陰ヘルニアでも整復します。

未去勢の子は男性ホルモンの分泌を抑えるために、去勢手術も同時に行います。術後は腹圧をかけないように軟化剤を継続し、4〜5日の入院が必要になります。

結腸腹壁固定手術

結腸を腹腔内へ引き込み、腹壁に固定する事で、肛門側へ脱出するのを防ぐ結腸固定も組み合わせています。 会陰ヘルニアは片方を手術すると、反対側での発症が起こる事が多く、反対側も筋肉間に隙間がある時には、両側の同時手術を行っています。ここまでの手術で1時間半から2時間程度かかります。

前立腺固定手術

前立腺や膀胱が脱出している時はそれぞれの臓器を腹壁に固定する手術も同時に行っています。

直腸プルスルー手術

6時方向の会陰ヘルニアや、直腸憩室が重度な場合には、伸びきった直腸の粘膜を引き抜き、切除する事で、直腸憩室の切除を行っています。