★犬の橈尺骨骨折における3Dギプス治療法、181症例の調査_獣医師向け

はじめに

現在、犬の橈尺骨骨折は主に手術かギプスによる治療が行われている。手術は骨折線が正確に修復できるが、金属固定による応力遮蔽、骨質の劣化による回復障害、インプラント失敗のリスクがある1,2,3)。骨折を固定するインプラントが骨髄の血流を遮断するため癒合障害と遅延が起こりやすく、強固に固定するほど骨密度の低下と骨質の劣化で回復障害が起こり、骨軸方向のアパタイト方位は7ヶ月後でもほとんど回復しない2)。手術後はインプラントの湾曲や破折を防ぐため数ヶ月にわたり運動制限させるが、活発な犬を数ヶ月にわたって駆け足や跳躍を管理することは困難である。ギプス治療は主に亀裂骨折で選択されるが、転位がある骨折は適応外であり、長期の固定では筋萎縮や骨密度の減少4)や骨の湾曲が起こる。骨折の癒合には力学的安定性と機械的刺激が必要であるが、従来の治療法では両立しない。

目的

当院は、2018年に犬の橈尺骨骨折を治す新しい治療法として、足に立体的に完全にフィットする筒状のギプス(以下「3Dギプス」という)で治す治療法(以下「3Dギプス治療法」という)を考案した。本研究は、犬の橈尺骨骨折における3Dギプス治療法の確立を目的とし、3Dギプスで治療した181例の治癒期間と年齢と手術歴の影響を調査した。

材料と方法

3Dギプス治療法

骨折の炎症期と修復期で2種類のギプスを使用する。

受傷後のできるだけ早い日に徒手整復でアライメントを矯正し、介達牽引しながらシーネ固定して運動を制限する。修復期の初期に3Dギプスを作製し患肢に装着させ、歩行を開始する。3Dギプスは患肢を型取りし足型の石膏から作製したギプスで、装着すると完全にフィットし軽量で耐久性に優れている。3Dギプスを患肢に装着することで、骨折のねじれ方向や剪断方向を安定的に固定しながら歩行や駆け足や跳躍が可能となる。歩行時の骨折部位への軸圧負荷で骨髄幹細胞を骨芽細胞へ分化誘導させて間接的骨癒合により骨折を修復させる。

犬の橈尺骨骨折を3Dギプスで治療した181例の調査

症例は、当院に来院した橈尺骨の完全骨折の181例(2019-2023)である。年齢は生後2〜6ヶ月未満50例、6〜12ヶ月未満65例、1〜2才未満39例、2〜9才が19例で、10~18才が8例である。体重は1〜5kg未満が172例(95%)で、5kg以上は9例(5%)である。対象には、手術後の半年以内に同部位の骨折歴がある1〜16才の1 4例、治療前にNSAIDsを使用していた97例、うち7日以上は9例を含む。粉砕骨折および手術後の癒合不全の治療は含めない。

治癒期間は初診日から骨折が硬性仮骨で架橋結合が形成するまでとした。3Dギプス治療法による骨折の治癒期間、年齢および手術歴の影響を調べる。

結果

全頭の骨折が治癒し中央値は45日であった。最小値は10日で最大値は176日であった。ギプス固定の日数はシーネが平均7日で3Dギプスが平均38日であった。

3Dギプスは軽量で完全に患肢にフィットするので違和感なく歩行できた。装着の初期はぎこちなく歩くが、仮骨の増加に伴い駆け足や跳躍ができた。最初に骨折の凹側に描着仮骨が作られ、次に凸側にも増えていき、歩行を続けることで骨折部分が仮骨で徐々に太くなる。犬の運動による3Dギプス破損はなく十分な耐久性があった。軟性仮骨が硬性仮骨になり架橋結合ができたら治療を終了とした。

年齢別の中央値は、生後6ヶ月未満は31.5日、6ヶ月から1才未満は44日、1から2才未満で62日、2才以上で74日であり全て有意差が認められた(P<0.05)2〜9才と10~18才では有意差は無かった。3Dギプス治療法で治癒が100日を超えた例は12例(6.6%)で、半年以内に骨折の手術歴がある5例と骨折初期にNSAIDsを7日以上使用した3例を含む。治癒日数が最長の176日であった犬は、手術歴があり治療前にNSAIDsを7日間使用していた。3Dギプス治療法で骨癒合した後に、半年以内に同部位で再骨折した犬は3例(1.6%)であった

骨折の手術歴がある症例(N=14、1才〜16才)では中央値が76.5日で平均値は87日、年齢が1才以上で骨折歴のない症例(N=52、1才〜18才)の中央値は64.5日で平均値は68.7日で有意差があった。(P<0.05)

 初回骨折n=52再骨折n=14
中央値64.576.5
平均値68.787

考察

骨折の治癒には修復期初期の体重負荷や筋収縮が最も効果的である5、6)。修復期初期の骨は不安定で歩行に耐える強度はないが、3Dギプスの装着で歩行が可能になる。歩行時に骨折のせん断や回旋転位を防ぎながら垂直方向へ軸圧負荷がかかる。間接的骨癒合による骨折の修復は徐々に骨が太くなっていくので癒合がわかりやすい。治癒後に太くなった骨はリモデリングされて元の太さと構造に戻る7)

一才未満と成犬では、治癒期間に有意差があることが知られている8)。本研究では生後6ヶ月未満から2才までの年齢別に有意差があり、2才以上は高齢犬でも治癒期間は変わらず修復力は維持した。

手術による骨折治癒の中央値は60~79.5日9、10)で、その後のプレート除去に89日かかり9)、治療期間は約5ヶ月である。3Dギプス治療法に比べると癒合が遅く、手術後に再骨折すると治癒が遅いのは、リモデリングが遅延しているからと考えられる。

臨床的意義

3Dギプス治療法は非侵襲的で運動制限もなく、年齢別で治癒期間が予測できる。一般の動物病院でも治療が行えるため広く普及が可能である。

3Dギプス治療とプレート手術の比較

比較3Dギプス治療プレート手術
治療期間1ヶ月〜2ヶ月半5ヶ月〜6ヶ月(手術からプレート除去まで)
運動制限なしあり
麻酔、手術小型犬:なし
大型犬:短時間麻酔
手術
固定器具リスクテープによる皮膚炎金属破折、湾曲、感染、応力遮蔽と骨髄腔閉鎖による骨萎縮と骨融解
骨の再生骨芽細胞の増殖骨膜の癒合
骨の転位受傷初期に矯正
自家矯正で正常に戻る
正確な整復
適応犬の橈骨尺骨の単純骨折単純骨折から複雑骨折まで対応、海綿骨の豊富な骨

問い合わせ

電話 0471-46-1047

メール ishijima2013@gmail.com

参考文献

1)Timothy L Menghini , Georgia Shriwise , Peter Muir  Fracture Healing in 37 Dogs and Cats with Implant Failure after Surgery (2013-2018) 2023 May 5;13(9):1549. doi: 10.3390/ani13091549.

2)Keiichiro Mie, Takuya Ishimoto, Mari Okamoto, Yasumasa Iimori, Kazuna Ashida, Karin Yoshizaki, Hidetaka Nishida, Takayoshi Nakano, Hideo Akiyoshi Impaired bone quality characterized by apatite orientation under stress shielding following fixing of a fracture of the radius with a 3D printed Ti-6Al-4V custom-made bone plate in dogs 2020 Sep 2;15(9):e0237678. doi: 10.1371/journal.pone.0237678. eCollection 2020.

3)Matthew D Barnhart, Cristobal F Rides, Shawn C Kennedy, Sean W Aiken, Charles M Walls, Christopher L Horstman, David Mason, Jonathon C Chandler, Jeff D Brourman, Sean M Murphy, Frederick Pike, Steven J Naber Fracture repair using a polyaxial locking plate system (PAX) Vet Surg. 2013 Jan;42(1):60-6.doi: 10.1111/j.1532-950X.2012.01063.x.Epub 2012 Oct 30.

4) Dimitri Ceroni , Xavier Martin, Cécile Delhumeau, René Rizzoli, André Kaelin, Nathalie Farpour-Lambert Effects of cast-mediated immobilization on bone mineral mass at various sites in adolescents with lower-extremity fracture Bone Joint Surg Am. 2012 Feb 1;94(3):208-16.doi: 10.2106/JBJS.K.00420.

5)S Larsson, W Kim, V L Caja, E L Egger,N Inoue,E Y Chao  Effect of early axial dynamization on tibial bone healing: a study in dogs 2001 Jul;(388):240-51.doi: 10.1097/00003086-200107000-00033.

6)Peter Augat , Marianne Hollensteiner , Christian von Rüden  The role of mechanical stimulation in the enhancement of bone healing  jury 2021 Jun;52 Suppl 2:S78-S83.doi:10.1016/j.injury.2020.10.009. Epub 2020 Oct 2. PMID: 33041020 DOI:10.1016/j.injury.2020.10.009

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9)Takeshi Aikawa, Yuta Miyazaki, Yuya Saitoh, Shigeo Sadahiro, Masaaki Nishimura Clinical outcomes of 119 miniature- and toy-breed dogs with 140 distal radial and ulnar fractures repaired with free-form multiplanar type II external skeletal fixation 2019 Aug;48(6):938-946. doi: 10.1111/vsu.13245. Epub 2019 May 29.

10)M Higuchi, M Katayama Clinical outcomes of orthogonal plating to treat radial and ulnar fractures in toy-breed dogs J Small Anim Pract. 2021 Nov;62(11):1001-1006.doi: 10.1111/jsap.13397. Epub 2021 Jul 14.

>いしじま動物病院3Dギプス骨折治療センター

いしじま動物病院3Dギプス骨折治療センター

院長、獣医師 石嶋茂夫
千葉県柏市豊四季130-22

保管業
登録番号,第12ー2ー26号、登録,平成24年12月12日、有効期限,令和9年12月11日、 動物取扱責任者,石嶋茂夫