小型犬の橈尺骨骨折における骨治癒の可視化:3Dギプス治療法
著者 石嶋茂夫
連絡先:ishijima2013@gmail.com
要約
小型犬(トイ犬種)の橈骨・尺骨骨折は、骨が細く、軟部組織が少ないため治療が難しい。手術で金属固定を行うと安定性は得られるが、ストレスシールディング(荷重が骨に伝わらないこと)や骨髄腔の閉塞により、治癒の遅れや偽関節を起こすことがある。一方で、従来のギプス固定は侵襲が少ないが、完全骨折の固定力が不足し、長期固定が必要になるという欠点がある。
本研究では、症例ごとに形を合わせた2段階式の3Dギプス治療法を開発した。炎症期には骨折部を確実に保持するために強固な3Dギプスを装着し、修復初期にはスリットを設けた弾性のある3Dギプスに切り替えて、制御された荷重歩行と機能回復を行った。連続したレントゲン観察によって、骨治癒の全過程を可視化することができた。
その結果、次の2つの特徴的な治癒現象が明らかになった。
- 若齢犬でみられる急速な仮骨形成(Super-Healing)
- 軽い荷重刺激により骨片が自然に整列していく滑走治癒(Slide-Healing)
これらの結果は、安定した柔軟固定のもとで制御された力学的負荷を与えることが、骨再生を積極的に促すことを示している。この3Dギプス治療法は、手術を行わずに確実な骨癒合を得られ、活動制限を最小限にでき、動物の生活の質を大きく改善した。その簡便さ・安全性・再現性の高さから、小型犬の橈尺骨骨折治療における新しい標準治療となる可能性があり、さらに、臨床整形外科と再生医療をつなぐ新しいモデルとしての応用も期待できる。