いしじま動物病院 石嶋茂夫
はじめに
現在、犬の橈尺骨骨折は主に手術かギプスによる治療が行われている。手術は骨折線が正確に修復できるが、金属固定による応力遮蔽、骨質の劣化による回復障害、インプラント失敗のリスクがある1,2,3)。骨折を固定するインプラントが骨髄の血流を遮断するため癒合障害と遅延が起こりやすく、強固に固定するほど骨密度の低下と骨質の劣化で回復障害が起こり、骨軸方向のアパタイト方位は7ヶ月後でもほとんど回復しない2)。手術後はインプラントの湾曲や破折を防ぐため数ヶ月にわたり運動制限させるが、活発な犬を数ヶ月にわたって駆け足や跳躍を管理することは困難である。ギプス治療は主に亀裂骨折で選択されるが、転位がある骨折は適応外であり、長期の固定では筋萎縮や骨密度の減少4)や骨の湾曲が起こる。骨折の癒合には力学的安定性と機械的刺激が必要であるが、従来の治療法では両立しない。
目的
当院は、2018年に犬の橈尺骨骨折を治す新しい治療法として、足に立体的に完全にフィットする筒状のギプス(以下「3Dギプス」という)で治す治療法(以下「3Dギプス治療法」という)を考案した。本研究は、犬の橈尺骨骨折における3Dギプス治療法の確立を目的とし、3Dギプスで治療した181例の治癒期間と年齢と手術歴の影響を調査した。