■ 骨折治療は「固定」から「再生」へ
当院では、犬の橈尺骨骨折に対して、自然治癒力を最大限に活かす非観血的治療「3Dギプス療法」を2018年から臨床応用しています。本治療法に関する研究成果は、以下の2つのテーマとして プレプリントで公開済み であり、現在は 1本の統合論文として国際誌への再投稿を準備中 です。
■ 研究テーマ①
骨折治癒過程の可視化(Radiographic Visualization)
連続したX線画像によって、3Dギプス療法下で起こる骨の自然治癒プロセスを体系的に記録・可視化 しました。
その結果、以下の特徴的な治癒様式が確認されました:
- Super-Healing:若齢犬にみられる旺盛な仮骨形成
- Slide-Healing:軽度の機能的荷重による骨片の自然整列
これらは、従来の手術治療では観察されにくい力学(メカノバイオロジー)に基づく生物学的骨癒合 を示しています。
■ 研究テーマ②
年齢別の治癒日数の解析(Age-Based Healing Analysis)
191肢の臨床データを用いた大規模解析により、年齢が治癒速度に大きく影響することを統計的に確認しました。
- 若齢犬ほど治癒が早い
- 年齢とともに治癒日数が延長する
- 体重は治癒速度に有意な影響を与えない
これらの分析により、臨床現場で「治癒までの日数予測」 が可能になりました。
■ 3Dギプス治療法の臨床的位置づけ
- 手術不要
- 関節可動・歩行を維持
- 動物福祉に配慮した低侵襲アプローチ
- 生体本来の再生力を活性化させる治療
3Dギプス療法は、「機械的固定に依存する手術治療」から「自然修復力を利用する再生型治療」へと移行する新しい選択肢 として期待されています。
■ 研究の公開状況
- 本研究の詳細データは プレプリントで公開済み
- 現在は、2本の研究成果を 1本の統合論文として再投稿準備中
- ホームページでは 概要のみを掲載し、論文本文・症例詳細は公開しません
■ プレプリント(公開済み)
- Visualizing Bone Healing in Canine Radial–Ulnar Fractures
DOI: 10.20944/preprints202510.1026.v1 - Age-Based Radiographic Evaluation and Healing Time Analysis in 191 Limbs
DOI: 10.20944/preprints202510.0803.v1
骨折治療は「外科手術」から「再生医療による癒合」へ
当院は犬の橈尺骨骨折の治療で自然治癒力を最大限に引き出す3Dギプス療法を開発しました。今回発表した2本の論文で再生力による骨癒合を科学的に証明し、新しい理論、実証、証明解析を完結させました。
第1論文では、小型犬の前足骨折を自己修復力で治癒させ治癒過程を時系列レントゲン写真で可視化することに成功した報告です。3Dギプス治療によって骨折が自ら再構築していく新しい治癒様式(Slide-Healing / Super-Healing)が観察ができるようになり、再生医療の原理を臨床現場で直接観察・記録できるモデルを作りました。
第2論文では、191肢の臨床データに基づく年齢別の治癒日数の予測モデルを構築しました。解析の結果、若齢犬ほど急速に治癒し年齢とともに癒合日数が有意に延長することを統計的に証明し、年齢別の治癒期間を予測することを可能にしました。
3Dギプス治療は骨折癒合期間の短縮、手術不要、治療期間中の運動制限がない動物福祉に利する治療法です。本研究は、骨折治療を「機械的固定」から「自己修復力による再生」へと導く新しいパラダイムシフトを示しました。