幹細胞とは自己修復能と多分化能を併せ持つ細胞で、主な作用は、サイトカインによる損傷組織の保護、免疫抑制効果(自己免疫疾患)、細胞の分化による組織修復と再生です。健康な犬猫から幹細胞を脂肪から採取し、培養技術で増殖させた幹細胞を、病気の犬猫に点滴します。従来では改善が難しいとされていた自己免疫疾患や慢性肝障害や重度の脊髄損傷、猫の難治性口内炎などで治療を行っています。

7ヶ所の椎間板ヘルニアと、頚部の脊髄で中心管拡張/脊髄空洞症があり、体の痛みと足の麻痺がありました。幹細胞点滴の1時間後には、動きが軽快になりました。 3ヶ月以上すぎましたが、痛みと麻痺の再発はありません。
 

犬の幹細胞療法の適応症

椎間板ヘルニア、自己免疫疾患、免疫介在性血小板減少症、骨折の癒合不全、特発性炎症性腸疾患(IBD)、高齢の変形性脊椎症、アトピー性皮膚炎、角膜潰瘍、脳梗塞、脊髄空洞症 

猫の幹細胞療法の適応症

難治性口内炎、多発性嚢胞腎

 

間葉系幹細胞療法に関する論文

・完全抜歯や免疫抑制剤に反応しなかった猫の難治性口内炎で、脂肪幹細胞療法の2回投与で7割が回復しました。
Stem cells translational medicine
Therapeutic Efficacy of Fresh,Autologous Mesenchymal Stem Cells for Severe Refractory Gingivostmatitis in Cat

・食事療法と対症療法に不十分な反応をした炎症性腸疾患の犬に、脂肪幹細胞療法で8割が回復しました。
The Veterinary journal
Safety and efficacy of allogeneic adipose tissue-derived mesenchymal stem cells for treatment of dogs with inflammatory bowel disease:Clinical and laboratory outcomes 


 幹細胞療法 

当院で再生医療で使用する細胞は、脂肪から採取して培養する間葉系幹細胞です。
脂肪細胞から作成する間葉系幹細胞は腫瘍化の危険が低く、採取しやすい組織なので臨床応用が進められています。

間葉系幹細胞が持つ主な作用

  1. 細胞の生産するサイトカインによる損傷組織の保護
  2. 免疫抑制効果
  3. 間葉系幹細胞の分化による組織修復と再生

 1では、分化誘導を行わないそのままの間葉系幹細胞が組織再生に有効とされるのはこの作用がメインです。2では、免疫介在性疾患をターゲットとして治療が行われています。3では、同じ中胚葉系の骨、軟骨、脂肪に限らず、胚葉を越えて神経細胞、グリア細胞、肝細胞などに分化することが報告されています。現在、なぜ胚葉を超えた幅広い分化が可能であるかは、明らかになっていません。

 脂肪幹細胞(ADSC)の培養

幹細胞の分離と培養は、ヘパフィルターが付いたクリーンベンチ内の清潔な空間で作業しています。ADSCの作成には、約20日間かかります。 

  1. 若い動物から1g程度の脂肪を採取し、幹細胞を分離する。
  2. フラスコ内でADSCを培養
  3. 血球成分を洗浄し、CO2インキュベーターで培養
  4. ADSCを培養バックに移してCO2インキュベーターで培養
  5. ADSCを凍結液に移し-80℃の冷凍庫で保存する。P1の作成。
  6. 継代を行い、P2を作成する。

 

1、幹細胞を培養するフラスコ 2、フラスコ内に培養した幹細胞 3、倒立顕微鏡

P3以降では幹細胞の能力が下がるため、当院ではP1とP2を治療に使っています。
トリパンブルー染色で生細胞をカウントして、80%以上のADSCを使用しています。

 

脂肪幹細胞の種類

<自家細胞>
自己の体から脂肪を採取し、脂肪から幹細胞を取り出し培養します。2週間、幹細胞を培養して十分に増殖したタイミングで静脈から点滴投与します。
<他家細胞>
健康で若い同種の動物から採取した幹細胞を投与します。幹細胞は凍結保存してあるので、当日の投与が可能です。現在は、ほとんどの症例で他家の幹細胞を使用しています。


幹細胞療法のリスク

幹細胞療法は新しい治療法のため、投与後から長い時間が経過してから有害事象が発現する可能性は否定できません。幹細胞は多分化能と免疫抑制効果をもつことから、有害事象として潜在的には考慮されることには、異所組織形成と腫瘍形成があります。
しかし、現在までにヒトの臨床試験においては異所組織形成の事実は確認されていません。また、脂肪細胞から採取する間葉系幹細胞は、腫瘍化の危険が低いと考えられています。 

過去に幹細胞療法で起きた死亡例/過剰投与と管理不備

2010年9月に京都市のクリ ニッ クで幹細胞投与を受け た男性(当時73歳)に、約3時間かけて、自身の幹細胞約 4億個を右足の静脈に点滴後に心停止で死亡しました。 死因は血栓が肺動脈に詰まる「肺塞栓(そくせん)」です。点滴を指示した医師は新幹線で自宅へ戻る途中で、 十分引き継ぎを受けていない別の医師が心臓マッサージをしたが蘇生せず、通常の医療機関なら常備してい る気道確保のためのチューブもなかったとのことです。(毎日新聞 2013年05月04日より)
現在の幹細胞投与量の基準からすると、約7倍量の過剰投与であり、投与後の管理不備もあります。 


投与方法

1、投与前に、体温と呼吸数と心拍数の測定、血液検査などを行います。
2、午前から午後にかけて、幹細胞の静脈点滴を行います。
3、点滴が終了した後に、体調を観察してから帰宅します。  

幹細胞の点滴の注意点

1、幹細胞の投与量の厳守(最大投与量は、体重×100万個)
2、投与中と投与後のバイタルチェック(呼吸数、心拍数)
幹細胞は紡錘形で、静脈投与後に肺の毛細血管にトラップされるため、点滴中と投与後の呼吸器系の管理が重要です。

幹細胞療法を行うタイミング

脊髄損傷では亜急性期(人では脊髄損傷を起こしてから2週間〜1ヶ月)の投与が効果的です。慢性期になると、幹細胞療法に加えてリハビリが重要になります。 

効果の現れ方と投与回数

1~2週間以内に血管新生因子が血行の再構築を行います。 
1回で劇的に改善することもあります。連続で投与する場合は、1週間〜1ヶ月おきに行い3回目まで治療反応を確認します。自己免疫疾患や肝障害などは、3回目以降も継続投与を行う場合もあります。  

椎間板ヘルニアにおける脊髄再生医療の効果

グレード4の脊髄損傷は2ヶ月以内に投与で、3〜4日後に8割に効果あり。
慢性期脊損グレード5で42〜43%に反応

幹細胞療法の治療例

 

脳脊髄傷害/マメちゃん

約1年前から、脳せき髄障害により起立と歩行ができませんでした。

治療:幹細胞の点滴を3回

自家幹細胞の投与では、変化がありませんでした。他家幹細胞の投与の1ヶ月後から変化が現れており、他家幹細胞が分化により組織修復と再生を起こしたと考えられます。3回目では静脈投与と点鼻投与を行っており、投与直後からの劇的な効果は、「trophic効果」によるものと考えます。

幹細胞治療にかかる料金

  診察代 1000円
  血液検査(生化学12項目+完全血球計算) 7200円
  留置+器材費  3200円
  点滴料     4500円
  幹細胞(他家) 70000円 (10kg以下の犬)


   合計   85900円

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