犬の骨折治療

骨折部を強固に固定すると、生体は骨折の治癒を行わないことがわかっています。現在の骨折の治療は、四肢においては正確に整復しないフレキシブル(弾力的)な固定が推奨されています。

骨折が治るには、骨の再生を起こさせることが必要です。当院は小型犬の四肢の骨折治療は、「早く強く骨を癒合させる」「骨の癒合不全や弱体化を起こさせない」ことを優先と考えています。足の型取りして作成したギプス固定とPRP法と超音波治療器で治療しています。斜骨折や、肘に近い場所では、創外固定を行います。骨折部を開創しない治療法(ギプス、創外固定)は、骨折部位に血行、サイトカイン、組織修復の修復因子が温存できるため、骨癒合不全のリスクが少なく、骨折が早く強く治ります。

小型犬の骨折治療で癒合不全が起こる理由

小型犬は骨が細く、骨再生に必要な、海綿骨、骨髄、サイトカイン、骨への血行などが乏しいです。骨折時には血腫や炎症により骨修復に必要な材料が骨折した部位に集まりますが、骨再生に必要な量が集まらなかったり、動物が非協力的で固定ができなかったり、手術による血行遮断や血腫を除去してしまったりなどの複合的な要因で骨折が治らない場合があります。

骨折の手術の後で、骨の再生が起こらず、骨が薄く細くなっていくことがあります。特に小型犬の前脚の骨折で、強固なロッキング-コンプレッションプレート法による手術で骨吸収になるリスクが高くなります。骨折部位が癒合不全になった場合は、何度も再手術をしたり、最終的には断脚を選択をするしかないこともあります。

現在の、人の医療における骨折治療の考え方は、正常な骨の修復の過程を阻害しないことが重要とされています。骨折が治るということは、骨が再生するということです。骨再生の過程で重要なことは、フレキシブルな固定で骨折部位に刺激を与えることです。しかも、骨折の治癒は、生理的な速度でリモデリングされた骨が一番強いとされています。

足全体を覆うギプスによる骨の変形と脆弱化を起こした例

下の写真は、大きなギプスを使用していたために起きた骨の変形です。骨密度が低く、足が湾曲しているため、日常生活でも容易に骨折します。

 

 

骨吸収を起こさせない骨折の治療

骨折した骨の周囲を開創しないことでサイトカインの温存します。骨折している足から足型を作成して、オーダーメイドのピッタリあったギプスを作成しています。負重できる工夫をして、骨折部位に適度ば刺激が加わるようにします。骨折のラインが斜めの場合は、創外固定手術を併用します。非開創で生理的に修復した骨折部位は、竹の節のように太く強く再生して、再骨折のリスクが格段に下がります。

市販のギプスや、直接足に巻いて作ったギプスでは骨折箇所の正確な固定ができません。徐々に骨折ラインがずれていったり、皮膚に褥瘡が起こることが多いです。また、強固なギプスで足を全く動かせないようにすると、1週間程度で骨吸収が始まります。
マウスの実験では、骨折した足を完全固定すると骨が修復しないことが証明されています。骨折部位に力の刺激が伝わらないと骨の修復は起こりません。このことから、犬の骨折した前足を強固なギプスによる完全固定したり、骨折部位を強固につなぐ治療法は、自己の持つ骨再生の過程を阻害していると考えられます。

足型ギプスでの治療

小型犬の骨折治癒では、前足が細いほど足にフィットしたギプスを装着することが重要になります。足型から作成したギプスでは、骨折部位がずれるリスクが少なく、褥瘡の軽減され、着地による骨への刺激が与えられます。フレキシブルな固定ができるため、早期に骨折部位の再生が促されます。

骨折から1週間ぐらいで、徐々に骨折した足を着地させるようにします。

足型ギプスの作成

足の型取りしてギプスを作成します。一度石膏で型取りすることで足にフィットするギプスが作成できます。特に小型犬の前足骨折では、足にフィットしたギプスを作成することが重要です。

歯科用で使用するハイドロジェンを使用します。

骨折した足の型取りを行なっています。

型取りしたハイドロジェンに石膏を流し込み、固まらせて足型を作成します。

石膏の足型に、硬化プラスチックを巻きつけて、足にフィットしたギプスの型取りをします。

上下の長さを整えて、オーダーメイドの足にフィットしたギプスを作ります。

足にぴったりフィットしたギプスは、皮膚の褥瘡のリスクを軽減して、治療中の皮膚病のストレスを軽減します。
足裏が着地できる形にすることで、骨折部位に適度な刺激が加わり骨折の治癒が進みます。

骨の折れ方が横骨折の場合は、ギプス固定だけで治療できます。

骨が斜めに折れる斜骨折の場合は、創外固定法の手術と足型ギプスを併用しています。

小型犬の骨折、創外固定法と足型ギプスによる治療

 

犬は、噛んでギプスを壊すことがあります。骨折が完治するまで足型の石膏を保存しておきます。ギプスが壊されても、すぐに同じギプスを作れます。

 

足型ギプスの治療症例

その1:超小型犬の前脚骨折の治療

体重1,5kgのポメラニアンの右前脚の骨折です。細い骨ほど骨折の癒合不全のリスクが高くなります。

骨折ラインが骨に対して真横の横骨折の場合では、手術を行わずに足型ギプスだけで治癒が可能です。

型取りギプス、PRP療法、超音波治療で治療しました。

骨折部位は、竹の節のように太く強く修復します。今回の骨折では、超音波治療を併用しました。

 

その2:大型犬の骨折

体重が30kgの大型犬のボルゾイの右前足の骨折です。プレート法のリスクをご存知の飼い主様で、ギプス固定で直して欲しいとの事でした。

骨折ラインが斜めの斜骨折でしたので、変形癒合を了承してもらい、足型のギプスで治療を開始しました。

若くて元気な大型犬のため、エリザベスカラーが外れて、ギプスを噛んで破壊することを3回しました。治療の初回に足型の石膏を作っているため、破壊されても足にフィットするギプスを作れます。足型の石膏は、骨折の治療が終了するまで病院で保管しています。

足型ギプスによる治療は、横骨折なら1ヶ月〜1ヶ月半程度、斜骨折なら約3ヶ月で骨が癒合します。今回は、PRPの局所注射と超音波治療も行なっています。

現在、1年以上の経過を診させています。歩行も正常で障害も無く、生活に支障はありません。変形して癒合した骨は、月を追うごとに真っ直ぐに修正されています。変形癒合で治癒した骨折部位は、竹の節のように太く強固に癒合します。生体が持つ治癒力を利用した方法で治す骨折治療は、癒合不全のリスクを著しく減少させます。

その他に、当院で行なっている骨折の治療

PRP療法(Platelet Rich Plasma/多血小板血漿)

PRP療法は、骨折の癒合不全、骨・軟骨・靱帯損傷などで使用します。人の医療でも、骨の再建に使用しています。患者負担は全血の採血だけで侵襲が少なく、自己由来なので安全な治療法です。
PRPは自己の血液中の血小板から作成します。血小板は止血のみならず創傷治癒に重要な働きがあります。血液が凝固するときには、血小板が 内包するα顆粒から多種多量のサイトカインを放出し、これが、炎症と組織増生を導き、治癒がはじまります。治療は、自己の血液から作成したPRP液を骨折部位に局所注射します。

超音波療法

低出力パルス超音波の骨折治療器で治癒を促進させます。


手術による骨折治療

創外固定法

1、FESSA創外固定 2、創外固定に使う手術器具

過度に強固な固定をしない創外固定は、生体が骨折を認識して治癒を開始します。 創外固定は見た目の悪さと治癒するまでの不自由さがありますが、骨折部位が全周で強固に治ります。

骨折手術で骨再生が起こらない例
下の写真は、創外固定法で強固に骨を固定したため、骨吸収を起こしています。創外固定でも、ピンの入れる位置や固定強度によって、骨吸収や癒合不全が起こります。骨折の手術では、強固な固定よりもフレキシブルな固定が必要です。

当院では、骨を固定するピンの数は最小限にして、着地を促して骨折部位に刺激を与え、1週間ごとにピンの固定を少しずつ緩めて骨に刺激を与えて骨再生を促します。

 

症例その3:創外固定と足型ギプスの併用

骨折のラインが、斜めに折れている場合は、創外固定法と足型ギプスを併用しています。足型ギプスだけでは、骨の癒合の変形が強くなるのと、治癒までの時間が長くなるため、創外固定法を併用します。

創外固定法により、足の骨に金属のピンをつけて、骨折線を合わせて固定します。

創外固定の周囲に、足型から作ったギプスをはめて固定します。

ギプスと創外固定をテープで固定します。
金属部分の露出を保護します。
必ず、足裏のパットで着地させるようにして、骨折部位に刺激が行くようにします。

ピンニング法

猫の大腿骨は骨の形が円柱状で横断面が丸いので、ピンニング法が使いやすいです。骨の海綿骨部分にステンレスのピンを挿入します。骨折部位の全周で治癒するので骨折部分が太く強く再生します。

1、骨の真ん中にステンレス製のピンを挿入します。2、ピンニング法で使用する手術器具

 

プレート法

骨に沿わせたプレートをネジで止めることで強固な固定が得られます。特に、ロッキングプレートやダブルプレート法では、非常に強固な固定になります。

1、ネジでプレートを骨に固定します。2、プレート法で使用する手術器具

過去の骨折の治療では、正確で強固なプレート法を推奨していました。しかし、手術による固定が強固なほど、癒合不全になるリスクが高くなることが分かってきました。

プレート法の手術の直後のレントゲン写真は、正確な整復が行えるので、手術が成功したように見えます。

骨吸収が加速して骨が消えていきます。現在、当院では、小型犬の骨折手術ではプレート法は推奨していません。

 

強固な固定による骨吸収の例

下の写真は、2〜3年前に猫の後足の骨折をロッキングプレートで手術したものです。ロッキングプレート法は、最新のプレート手術法ですが、骨折部の圧着が強いため骨の再生は起こりにくくなります。骨折したであろう場所の骨再生はできていません。また、足首は進展したまま固定されて動かなくなっています。

 

下の写真は、骨に対してプレートが大きすぎた例です。プレートが強固なため骨に刺激が伝わらず骨吸収が起こっています。

骨吸収を起こしてしまう共通点は、治療によって骨に刺激が無くなっていることです。2017年3月に行われた日本再生医療学会で、足の完全固定した場合は、石灰化は起こらないことと、生理的な速度でリモデリングされた骨が一番強いことが発表されています。

 

癒合不全の骨の再生治療

 癒合不全や骨吸収を起こした骨は、通常の手術法での治療は困難です。
当院では、骨再生を阻害している瘢痕組織を取り除き、下記の治療を組み合わせて骨の再生を行います。

  • 自己海綿骨移植
  • 幹細胞移植
  • PRP療法
  • 人工骨BMP製剤
  • ギプス固定
  • 創外固定
  • プレート法