早期の発見と治療の重要性

犬の口腔内腫瘍は、直径が3cmを超えると転移の可能性が高くなります。

犬の口腔内の悪性腫瘍は、悪性黒色腫、扁平上皮癌、線維肉腫が多く見られます。年齢や基礎疾患、転移の有無を考えて、治療法を提示をします。口腔内腫瘍の治療には、外科、抗がん剤、放射線、免疫療法が選択肢になります。生活の質が改善や完治の可能性が一番高く見込めるのは、外科手術です。

手術

手術する場合は、「完治を目的とする手術」か「生活の質を改善させるための手術」の2つ目標を決めます。飼い主様と、手術の目的とリスクを共有してから手術を行ないます。

上顎の手術

口腔内で上顎の犬歯周囲から発生した扁平上皮癌です。顔にできる腫瘍は、大きいほど見た目が変わるので痛々しくなります。上顎の大きな腫瘍の切除手術は、腫瘍のみの切除ではほとんどがすぐに再発するので、骨を含む拡大切除が必要になります。そのため、出血量が多くなるので手術の前後で輸血が必要になる場合もあります。
術後は顔が変形しますが、術前よりは生活の質が断然良くなります。手術後の問題点は、下顎の犬歯が上唇にあたるようになります。

手術前後の顔の変化

腫瘍が小さい時に早期の治療をすることが重要です。手術後の顔の変形はありますが、手術前よりも緩和されるので受け入れられると思います。

手術

上顎骨切除術
費用の目安:30~35万円(手術代、入院費、点滴料、診察料込み)
入院期間の目安:5〜7日間

 

症例1:悪性メラノーマ

左上顎の犬歯の周囲で腫瘍があります。検査結果は悪性メラノーマでしたので、犬歯周囲の骨ごと切除する手術が必要でした。

犬の口腔内メラノーマの手術

下の写真が、腫瘍の拡大切除後の前後の変化です。左上顎の骨切除を行っているので、少し鼻の位置の変形があり、切除部分が凹みます。また、下顎の犬歯が、上部の口唇に当たるようになります。腫瘍の直径が3cm以上でしたので、術後の抗がん剤が必要になります。

犬の口腔内悪性メラノーマの手術後

 

 

症例2:扁平上皮癌

下の写真は、右上顎の扁平上皮癌でした。腫瘍はゴルフボール大で、唇がめくれ上がるくらいの大きさでした。腫瘍に太い動脈が入ってるらしく、興奮するだけで出血が起こりボタボタと滴ります。炎症止めや止血剤の内科療法では、腫瘍の増大は止められませんし出血のコントロールも出来ませんでした。
扁平上皮癌では、手術による積極的な拡大切除が第1選択の治療になります。この症例では、上顎の3分の1程度の切除が必要でした。手術した。次の日には、水も食事も自力で食べることができました。

犬の口腔内扁平上皮癌の手術後

右上顎の扁平上皮癌で直径は10cm以上ありました。扁平上皮癌は、局所浸潤が激しく、短い期間で増大します。
扁平上皮癌は、腫瘍の直径が1cm以内の初期に、手術による完全切除ができれば完治が望めます。

犬の口腔内の扁平上皮癌の手術

 

症例3:悪性メラノーマ

下の写真は、腫瘍から出血のコントロールができないとのことで、手術を希望されて来院しました。左上顎の腫瘍は、悪性メラノーマで、上顎骨ごと切除する拡大切除を行ないました。5cmくらいの大きな腫瘍だったので、切除範囲も大きくなりました。腫瘍が大きいほど、手術による切除範囲が大きくなるので、術後の顔の変形も目立つようになります。

犬の口腔内悪性メラノーマの手術後

悪性メラノーマは、非常に脆い腫瘍で容易に出血します。また、早期にリンパ節転移や肺転移が起こるので、手術後には抗がん剤の治療を行うことが多いです。

犬の口腔内悪性メラノーマの手術

 

下顎の手術

上顎の手術に比べて、下顎骨切除の手術は顔の変化が少ないです。また、出血量も少なくてすみます。

費用の目安:25〜35万円(手術代、入院費、点滴料、診察料込み)
入院期間の目安:5〜7日間

症例1:骨肉腫

下の写真は、左下顎骨に骨肉腫ができたため、左下顎骨の片側全切除を行ないました。手術後は、舌が切除した側で垂れますが、食事の介助は不要です。手術後2日目には自力で食事をとりました。口の中の腫瘍は、容易に出血が起こりやすく、早期に食事ができなくなっていきます。また、リンパ節転移が起こりやすいです術後の補助療法として抗がん剤(カルボプラチン)で治療しました。

犬の口腔内骨肉腫の手術後

 

症例2:悪性メラノーマで、顎関節の切除

口腔内メラノーマは、成長速度が速く早期に周囲の骨やリンパ節に浸潤します。最終的には肺などに遠隔転移をします。肉眼上は黒く、潰瘍や壊死によって唾液が臭くなります。積極的な拡大切除で再発率は低く生存期間も長くなるという報告があります。無治療だった場合の平均生存期間は約2ヶ月です。発見しにくい場所で、リンパ節転移が起こりやすい場所です。
犬の口腔内メラノーマの手術

症例3:悪性黒色腫で、下顎骨の部分切除

12歳のゴールデンレトリバーの左下顎の悪性黒色腫です。腫瘍部分から出血するようになり、生活の質が悪化していくことが予想できます。高齢犬のため、飼い主様は手術を迷っていましたが、腫瘍からの出血が起こっていたため、手術を決断されました。下顎骨の片側全切除も治療の選択肢でしたが、年齢を考慮して部分切除としました。緩和目的の手術です。

犬の口腔内メラノーマの手術

 

手術後の管理

犬は下顎骨の切除のストレスによく耐えます。レトリバーなどの大型犬では、手術の翌日から食欲があることが多いです。柴犬などの犬種では、顎の違和感になれるまで時間がかかることがあります。数ヶ月後には、噛み合わせがズレてきます。数年が経つと、下顎骨切除をした側の頬がこけてくるのが目立つようになります。

下顎骨の片側全切除の1年後

1年前に、下顎の片側全切除を切除しました。切除した側の頬の筋肉が、時間が経つごとに萎縮するので、頬がこけたように見えます。舌も切除側で少し見えるようになります。しかし、自分で食事ができるので、生活に支障はありません。

下顎骨切除1年

 

先端の手術

腫瘍が鼻先に近いほど、腫瘍の切除は容易になります。また、腫瘍の直径が1cm以内の場合で、完全切除の手術ができれば、切除後の経過は良好なことが多いです。

症例1:吻側下顎骨部分切除

口腔内腫瘍では、食事をとるたびに出血が起こることが多いです。また、痛みのために食欲がなくなることもあります。犬の吻側の下顎骨切除は、自力で食事をすることにほとんど不自由はありません。

犬の口腔内腫瘍の手術

 

症例2:扁平上皮癌で下顎骨の吻側切除

下顎骨の扁平上皮癌です。高齢犬ですが、転移が無く手術のメリットが大きいと判断して下顎骨の吻側切除手術を行いました。切除した次の日には、自力で食事をしました。

 

症例3:上顎の腫瘍切除

上顎の切歯の間にできた腫瘍です。早期に手術ができれば、手術による侵襲が少なくなります。また、悪性腫瘍でも、完全切除の可能性が高くなります。

犬の上顎腫瘍の手術

 

唇の手術

口腔内の奥に発生していることと、底部固着の程度によって手術の難しさが変わります。
口の奥に発生する腫瘍は、家庭での早期発見が難しい場所なので、獣医師による定期的な健康診断をお勧めします。

犬の口腔内の繊維肉腫

手術の前後の顔の変化です。口唇の切除が必要だったため、手術後は奥歯が露出します。

犬の口腔内の線維肉腫の切除

 

舌の手術

舌の先端にできた腫瘍は手術が可能です。舌根部にできた腫瘍で大きくなった場合は、手術をすると自力で食事ができなくなります。

 

口腔内腫瘍のポイント

・早期発見が重要で、腫瘍の直径が1cm以内の時に、積極的な検査と治療を行うことが重要です。
・口腔内腫瘍を経過観察をして腫瘍の直径が3cmを超えると、転移のリスクが高くなります。